第一部 崩壊の序曲
序章
魔大戦・・・
またの名を死の大戦
それは現在からちょうど百年ほど前に起きた銀河規模の大きな戦争だった。
共和国議会は混乱していた。
当時議会で大きな力を持っていたカナロア議員が共和国4分割案を発表し大半の議員がカナロアに買収されていたため議会で可決、共和国が4つに分かれた。
これがそもそも間違いだったのだ。
カナロアは一つの国を任された。
そして次の日には暗黒の時代が始まっていたのである。
カナロアは皇帝を僭称し共和国に反旗を翻したのである。
カナロアは4つに分かれた国の二つを手中に収め独裁政治を行なった。
帝国内でカナロアに抵抗する勢力も一掃されカナロア独裁政権はゆるぎないものになっていった。
共和国政府はこの事態を打開すべく最強の傭兵、聖騎士を全員雇い帝国内部に潜伏させ内部からの切り崩しを図った。
この策は一時は成功しかけたが共和国が帝国に攻撃を仕掛けたロンガー星団の戦いで共和国が大敗したため聖騎士は全員撤退してしまった。
カナロアはクロウエに魔法を使える種族がいることを知りクロウエの魔法使いを捕縛。
魔法の研究を始めた。
そして魔法を使える戦士、ズークイを作り出した。
さらに大規模な艦隊を組織した。
最強の艦隊と呼ばれるマノハエ艦隊である。
マノハエ艦隊は無敵を誇り共和国防衛戦線は崩壊寸前であった。
だが女性聖騎士のセーラ・セイが帝国領へ潜伏し帝国の所要人物を暗殺することに成功したためこの戦争は終結に向かう。
帝国も人材がなければ戦いは続けられなかったのだ。
ここに帝国のもろさがあった。
共和国と帝国は平和条約を結び国家の治安維持以外の目的で軍隊を持たないことで魔対戦は完全に終結したのだった。
第一章 逃亡
――緑の星シュライクライド――
この星の名前を知っている人はほとんどいない。
シュライクライドでは多くの原住民が自治的な暮らしを営んでいた。
星そのものが都市といってもよく、自然と一体化して原住民シュライディアンが暮らしていた。
シュライディアンは見た目はかなり人に近い人種だが肌の色が全体的に緑がかっている。
耳も分厚く口の色は真っ青だ。
この緑の星の月の近くに2隻の船がやってきた。
巨大な帝国のマークがついた戦艦と大型の輸送船だった。
見る人はこの2隻がまさか戦闘中だとは思わないだろう。
帝国軍戦艦で小さな輸送船を攻撃するなどという話は聞いたことがない。
おそらくこの銀河に住む大半の人々はただのジョークとして流してしまうだろう。
実際見るまでは。
ここでは実際に帝国軍戦艦による輸送船攻撃は行なわれていた。
レーザーが無の空間を行き交う。
帝国軍の強大戦艦は収容してあった大量の小型戦闘機を駆使して輸送船を攻撃している。
誰がどう見ても輸送船が逃げ延びることは不可能に思えた。
輸送船の中では乗組員が廊下を走り回っている。
彼らはみんなハルビラ人である。
彼らはもともとコールケンレス系の3番目の月に住んでいるのだが脳が二つあり機械に非常に詳しいため多くのハルビラ人は全宇宙に散らばって飛び回っている。
その中にハルビラ人ではない鮮やかな髪で長身の男が一人立っていた。
彼の名はクライド・グランシャード。
元帝国軍仕官で帝国アカデミーを中退した男だ。
その横には背の低い車輪で歩行する四角いドームの頭を持つドロイドが立っていた。
「E−7!この船はどうなっちまったんだ?流星群の中でも通過してるのか?」
クライドが怒鳴った。
E−7と呼ばれたドロイドは電子音を響かせた。
クライドはさっきよりもより大きな声で再び怒鳴った。今度はE−7にむかって。
「おれは流星群ハラハラドキドキ突入ツアーになんか申し込んだ覚えはない!」
ドロイドは怯えたような電子音を響かせて頭部をくるりと回した。
輸送船の中には大勢生命体はいるがクライド以外が全員ハルビラ人で言語がしゃべれなく翻訳機も持っていないクライドには何が起こったか聞けなかった。
それ以前にクライドは自分の種族以外の者をばか者扱いするような態度を持つハルビラ人を嫌っていた、極一部を除いて。
そのときまた爆発音とともに船体が大きく揺れた。
Eー7はこの揺れで廊下に倒れて、廊下を走り回っている乗組員に蹴っ飛ばされた。
E−7は電子音を響かせたがクライドは無視した。
「まったくなんだってんだ?E−7!そんなところでねっころがってないで早く来い!」
E−7は自力で起き上がると船内を見回した。
乗組員たちは―言語は何か分からないが―すごくあわてている様子だった。
いや、どちらかというと怯えているの方が正しいかもしれない。
Eー7は何がおきてるかは知りたいと思ったが、ドロイドは人間にとやかく質問してはいけない、それを許してくれるのはE−7の主人であるクライドだけだった。
どちらにせよハルビラ人はドロイドを持たない種族。
だから分かるわけもなかった。
クライドは乗組員の間をすり抜けながら艦長室に向かっていた。
途中思いっきりぶつかってきたハルビラ人のわき腹を思いっきり殴ってやった。
E−7も乗組員にぶつかりながら艦長室に向かっていたが前に進むというよりも後ろに押されているような気がした。
この貿易船の艦長は600の言語をしゃべることができるハルビラ人だ。
クライドはハルビラ人は嫌いだが、この船の艦長バスルだけは意気投合している。
バスルは、首都惑星で人間に育てられた。
ハルビラ人にしては大柄で人間に育てられたためか他の同じ種族の者と違って人を小ばかにするような態度は一切取らなかった。
Eー7は電子音を響かせながらついに廊下の一番後ろまで押されてしまい、助けを求めた。
当然クライドは無視している。
クライドが船長室の前に立つと空気が抜けるような音がして扉が開いた。
クライドが中に入ると中には
「クライドよく来たな!ちょうどお前を探しにいこうとおもっとったところだ」
クライドは耳がおかしくなりそうだった。ちょうどそのときE−7が乗組員によって運ばれてきた。
乗組員は黙ってE−7をおいていくと出て行った。
クライドはこういうところがハルビラ人の嫌な所だった。
ハルビラ人はいちいち報告などしない。
たいていのことは賢い脳みそで理解できるからだ。
「それよりバスル!この揺れはいったいなんだってんだ?」
クライドが言った瞬間、また大きな揺れがきてE−7は電子音を響かせて倒れた。
「ああ、すまンな。帝国がでっけぇ船で追いかけてくンだよ。でかいっつってもでかい奴の中のいっちゃんでっけぇやつ、ウルトラ級ファイアウォールだ」
「ファイアウォールだと?あんなのに追われてるっていったい何しでかしたんだ?」
「スターバスターの設計図を盗み出したンだ。共和国に頼まれてな!」
「スターバスター?スターバスターってたらあの帝国が作ってるっていう星まで破壊する兵器か?」
クライドもなんと言われようとも驚かなかっただろうがさすがにこれには驚いた。
E−7は驚きすぎてまた電子音を響かせながら倒れた。
「ああ、そうだ。あんな超兵器設計図がなかったら壊せンだろ」
帝国にとってスターバスターはこの戦争を終わらせる手っ取り早い兵器だ。
完成したら絶対は解されることはない。
だが相手に設計図があれば破壊することも可能かもしれない。
Eー7は電子音を響かせっぱなしだ。
どうやら敵に勝てる可能性を計算しているようだ。
「バスル、逃げ切れるのか?」
クライドはこの分かりきった質問をエイリアンに投げかけた。
「逃げ切れると思うか?」
「優秀な操縦士がいれば逃げれるかもな」
「そうだ、優秀な操縦士がいりゃ逃げれるかもしれねぇンだ。だけどこの船ンなかにそんな奴がいるんかねぇ・・・」
「だったらバスル、俺が操縦してやろうか?これでもアンクロースの流星群を飛びぬいたんだぜ」
クライドは昔帝国軍の仕官だった時帝国軍の中でも1,2を争うほど操縦がうまく、帝国に表彰されたことがあった。
だがそれはもう5年前の話だった。
バスルは大笑いした。
「がははは!あいかわらず単純な奴だな!お前なら帝国のやろうから逃げ切ってくれるかもな!」
「初めからそのつもりで乗せたんだろ?ばればれだぜ」
クライドは笑いながら操縦室にむかった。
操縦室に向かう途中にEー7はやっと勝てる可能性が計算し終わって主人に報告した。
ウルトラ級ファイアウォール製造ナンバー638の艦長ピロックはさっきまでと見違えるような輸送船の動きに驚いていた。
このままでは逃げられるかもしれない。
さっきまでと違う輸送船の動きに恐怖を覚えたピロックは、全軍に叱咤した。
シュライクライドの住民シュライディアンのクリッドはずっとこの光景を見ていた。
クリッドはいつか飛行士になって空に飛び立ちたいと願っている数少ないシュライディアンの一人だ。
もともとシュライディアンはいまの生活を愛し、何百年もその生活を受け継いでいる種族だった。
だが100年ほど前に人間の女性がこの星に逃げ込んできて、そのときのシュライディアンの族長がその女性をかばい2人は結婚し子供が生まれた。その結果シュライディアンの中に人間との混血の者が現れた。
彼らは人間の好奇心や冒険心を受け継いでしまい、最近では宇宙に飛び立ちたいものが増えてきている。
クリッドは古い暮らしに飽き飽きしていた。
大人たちはクリッドがそういうとクリッドを叱り付ける
そこで必ず出てくる言葉が「おきて」だった。
クリッドはこの大人たちに失望していた。
大人たちはおきてを守りたいんじゃなくて今の暮らしを壊したくないだけなんだ。
確かにその考えのほうが正しいことは分かっていた。
だがクリッドはおきてに縛られてここで暮らすことには満足できない。
いつか壮大な宇宙船で飛び立ちたかった。
そういま目の前で戦闘を繰り広げているあの船のように・・・
クライドは昔を思い出すようだった。
帝国仕官のときのまだ若かったときの感覚が蘇ってくるようだった。
右に反転し降下し一気に上昇、そして宙返りを打ち逆方向に全速力で突っ込む。
輸送船にタックルをかまそうとした戦闘機をよけて上手くエンジンだけを破壊した。
もう一機は対人レーザーで操縦士だけを殺した。
2機ともシュライクライドへ落下していく。
昔もこんな風に飛び回ったもんだ。
あの出来事が起こる前までは・・・
「Eー7!ハイスペースに飛び込む準備はできたのか?」
E−7は電子音を響かせた。
「じゃあ今すぐジャンプする!目的地は・・・・」
ピロック艦長は悪態をついた。
せっかくもうすぐでやつらの行く先を盗聴できたというのに・・・
一体部下たちは何をやっているんだ?
あとで処断してやる。
だが大体の見当はついていた。
奴らがスターバスターの設計図を持って真っ先に行きそうな場所、共和国の首都ティラ・スカルトだ。
そのとき突如光がほど走り輸送船は光の中に消えた。
だがピロット艦長は航路座標を確認せずに即座に全軍ティラ・スカルトへハイスペースジャンプさせた。
いまからならまだ間に合うはずだ。